【スイス海外研修4日目午前】2022.10.12

スイス海外研修も折り返しを迎えようとしています。本日はリースの北東に位置するソロトゥルン州タール地方へ向かいます。ここでも昨日と同じく、2019年に奈良県に実習で来られていた現フォレスターのアドリアンさん(Adrian Widmer)にご指導いただきました。アドリアンさんはこの地域で活動する事業体「Hinteres Thal」のフォレスターとして活躍しておられます。スイスの「事業体」とは日本でいう森林組合のような存在で、フォレスターはその幹部的な役割もこなしています。

アドリアンさんの仕事のメインは木材生産、次にアドバイス等のサービス、そして生物多様性保全の仕事もされています。ここでは、まさに経済林における木材生産の施業現場を見せていただきました。前日のフロリアンさん同様、冬に施業計画を立てるそうで、春~夏には施業地の作業道脇の灌木除去をし、秋に伐採を行われるそう。スイスの特徴として、木質バイオマスの熱利用が一般的ですが、近年はロシアのウクライナ侵攻によって燃料需要が増え、燃材の価格が上がっているようです。そのため、スイス全体で木材生産の目標も用材から燃材にシフトする傾向があるようです。

この現場では、クローラタイプのハーベスタが伐採と玉切りをしていました。その機体の大きさと玉切りの速度に一同驚いていました。このエリアは地形が非常になだらかで、こうした大きい機械も入りやすく作業効率が非常に良いようです。

印象的だったのが、こうした経済林での効率的な施業をしながらも、生物多様性や気候変動対応への配慮を怠らないことでした。今、スイスをはじめ欧州では、気候変動による乾燥化の影響で、欧州の主要樹種であるトウヒの衰退が進むと予想されています。試算では、アドリアンさんの管轄地域2,200haでこれまでは年14,000m3だった森林の年間成長量が、来年度は11,000m3に減少し、これに伴い伐採量も11,000m3に減るとのことでした。こうした成長量のデータは州で検討されていますが、そうしたデータをフォレスターが現場で検討し、伐採量を抑えることで将来の森林が維持されるように考えておられました。また、トウヒが衰退することを見越し、比較的乾燥に強いモミの更新をより促すなどの対策も考えられているそうです。

また、アドリアンさんが見せてくれた地図には州が設定したゾーニングの色分けがされていました。赤色が保安林、青色が自然林、青斜線が自然保護区、緑色が経済林を表しており、これに沿った施業がされているとのことです。

次に伺ったのは、同じソロトゥルン州の西にある現場です。ここはブナが優先して植生している現場で、100年生に近いブナが林立する森林でした。しかし、手入れが不足していたため暗く、天然更新が促せないような場所であったとのことで、アドリアンさんが施業を行いました。実は、作業道を挟んで上側は前任のフォレスターがいわゆる定性的に間伐を行った森林。下はアドリアンさんの工夫で、群状にブナが残るように空間配置を考えて手を入れた森林です。

写真ではうまく伝わりにくいですが、施業の違いがなんとなくわかるでしょうか。強度に定性間伐をしたところは樹木間の距離が大きく開いています。一方、アドリアンさんの施業地は群状に木が密生しているのがわかります。アドリアンさんとしては、ブナの更新を図りつつも、残った木の安定性を保ちたい、また、土壌の乾燥を防ぐことで虫害のリスクを抑えたいという狙いがあるとのことでした。

この現場は保安林であり、アドリアンさんの申請によりヘクタール当たり33スイスフランの助成金を得ているそうですが、一律の技術基準に沿ったトップダウンの事業による施業ではなく、こうして森林所有者の意向、経済状況により現場にあった施業を工夫できる点がフォレスター制度のいいところだと感じました。

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