設立に寄せて

設立に寄せて

自然との折り合いをつける人材育成

学校長
藤平 拓志Takuji Fujihira

市場原理主義をベースとし、社会的コストを弱者に転換するワイルドな資本主義により、格差社会は広がり、世の中の歪みは大きくなってきています。 地球環境に対して多大なるダメージを与え続けており、地球環境の歪みも大きくなってきています。

 SDGsが流行語のように使われるようになってきましたが、人類の存在自体が地球環境にとって負荷であるという事実は否めません。 しかしながら、我々は生きていくしかないのです。では、何をすべきか。奈良県では先人達の不断の努力により育まれた吉野林業があり、又、日本全体でも多くの人の努力によって課題に取り組み、紆余曲折を経ながら森林を絶やすことなく現在に引き継いできたという現実があります。

 森林環境管理の表現形は多様性に富んでいると思います。ただし、過去から未来へかけての思想・哲学は、ある一定共通したものがあると思います。 国土保全(山を崩さない)、森林生態系保全(公益的機能を維持する)、地域社会の維持(生業としての継続性を保つ)。そのためには、環境の歪みを森林の声として聞き取り、理解し、対応していく。自然に対する畏敬の念を忘れる事なく、我々は謙虚に自然との折り合いをつけながら生きていくしかないのです。一緒に考え、行動しませんか。

パイオニアになる覚悟はありますか?
"Aut inveniam viam aut faciam"

「私は道を見出そう。さもなくば道を作ろう。」

元スイス・リース林業教育センター校長
アラン・E・コッハー 名誉校長Alan E Kocher

奈良県フォレスターアカデミーは将来を見据えた、これまでにない独自の教育制度を有する先駆的な取組です。
森林所有者や社会のために、より良い森林をつくるには、活動的でやる気があって実行力のあるフォレスターが必要です。


奈良県の森林は、はかりしれない豊かさの象徴であり、持続的で再生産可能な素晴らしい地域資源である木材を供給してくれます。

そして、森林は私たちの未来でもあります。新しいフォレスターを迎えることで、森林所有者と手をたずさえ、自然の力を活用しながら、未来のために、より多くのことを行います。
多種多様で「近自然」な森林は気候変動や病虫害に強く、安定しています。そこは、生物多様性やレクリエーションにとっても重要な場所で、自然災害からも私たちを守ってくれます。


アカデミーの新しい教育は、誰も挑んだことのない方法にチャレンジすることをいとわない若者たちのためにあります。後世に残る森林を創り出すことで、フォレスターは持続可能な発展に貢献できるのです。そして、全ての卒業生には、素晴らしい未来が開けることでしょう。

最後になりましたが、奈良県の皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

※「近自然」の森づくり
森林を多様な機能を有する生態系として取り扱い、自然の力を活用することで人為による介入を必要最小限に留める管理手法

始まりの地から、新たな歴史を!

吉野林材振興協議会会長 
川上村森林組合代表理事組合長

下西 昭昌Akimasa Shimonishi

記録に残る日本最古の林業である吉野林業は、室町時代後期(西暦1500年頃)に奈良県の川上村で始まりました。それまでは、天然林から木を伐り出すだけの営みであったものが、このとき初めて、植えて育てるという営みに変化しました。ただし、収穫までに長い年月と多くの資本や労働を要する林業は決して簡単なものではありません。

今日、皆さんが目にする森林(人工林)は、山持ち(森林所有者)や山守(森林管理者)、山行き(森林作業員)といった林業に関わる多くの人々の世代を超えた不断の努力によって育まれてきたものです。


時代は移り、森林や林業を取り巻く経済的、社会的環境が大きく変化する中で、林業の目指すべき方向や果たすべき役割は変化を求められています。奈良県フォレスターアカデミーは、現代的な意味での山守や山行きを育てるための学校です。この日本林業発祥の地から「森林と人との恒久的な共生」という新しい歴史の流れを広めていく人材が輩出されることを心より願っています。

恒続林を実践する 
森の番「フォレスター」

黒滝村森林組合
梶谷 哲也Tetsuya Kajitani

奈良県吉野で林業に従事して20年を超えました。その間、猛烈な台風や大雪により先人たちが大切に育ててきた木がへし折られ、また深層崩壊により森林が丸ごと崩れ去ったこともありました。自分が間伐した現場が崩れてしまった時は、どうしてそうなったのか、何が間違っていたのかと何度も自問自答しました。

模索する中で出会ったのが、スイス林業の「恒続林」という持続可能な森林管理の手法です。森林を長く安定した状態に保つことを第一として、そのために必要な施業を行う。これを実現させるのは人。このフォレスターアカデミーは歴史ある吉野林業に学び、スイス林業が実現する恒続林を実践する森の番人「フォレスター」を育成する機関です。もちろんフォレスターとは役職の名称にすぎません。


しかし、その職につけるのはこのアカデミーを卒業した者だけ。その誇りを胸に、これから数百年先の森林をイメージできる現場技術者やフォレスターとして大いに活躍して欲しいと思います。